DVのカウンセリング① 相手との関係が継続しているとき
DVのカウンセリングは、大きく三つの段階に分けることができます。
一つは、現在、配偶者や恋人などとの関係が継続中で、被害を受けている状況、二つ目は、相手との別離を決意し、それを実行に移す段階、そして三つめが、別離の後、です。
これらそれぞれに、注目するポイントが異なります。
そしてこれらのどの段階でも共通するのが「エンパワメント」です。
今回は、まずは一つ目の、暴力をふるう相手との関係が継続中の状況でのカウンセリングについて書いていきます。
この段階でのカウンセリングのポイントは二つあります。
一つは、暴力の状況の判断と対応です。加害者である相手の加害行為、危険性の評価し、危険な状況になった場合の対応と対策を具体的に考えます。
もう一つは、相手との関係性についてです。ここでは、DVについての理解を深めていくことも含まれます。
一つ目の、暴力の状況の判断と対応については、危険性の評価が重要になります。DVの加害行為は一様ではありません。命を奪われる危険が非常に高い、深刻な身体的暴力から、身体的な暴力はないものの、言葉の暴力、精神的な暴力まで、暴力には、さまざまな内容ややり方が見られます。
例え身体的暴力がしばらく起こっていなくても、あるいは起こったことがなくても、状況によっては危険性が増す場合もあります。
相手がふるってきたこれまでの暴力、相手の状況や性格などを聞き取り、カウンセラー側がその危険性について検討するとともに、被害者ご本人がその状況をどのようにとらえているかということも含めて、カウンセラーとご本人が一緒に危険性について検討します。
その中で、カウンセラー側や警察、あるいは周囲の身近な人が、暴力の危険性が非常に高く、できればそれを何とか回避していくべきと考える一方で、被害者ご本人が、様々な理由で相手と一緒にいる状況を継続することは少なくありません。
その理由は、暴力被害の影響のために、心理的に相手に拘束されて動けない気持ちになっている場合もあれば、心理的には相手と十分距離をとれているものの、仕事や子どもというような理由で、相手との生活を続けざるをえないというような場合もあります。
あるいは、実際的な暴力被害の危険性が低いと考えられる場合でも、これまでの精神的な暴力の積み重ねで恐怖感・嫌悪感が強く、相手とは一日でも早く離れたいと思っている場合もあります。
実際的な危険性がある場合は、それをどのように回避するかについて、具体的にシミュレーションします。
危険性が低い場合では、自分が今の状況を乗り切るためにどのようなことが考えられるかということを検討します。
これまで辛い毎日を送って、やっとの思いで相談したものの、ただ「危ないから逃げたほうがいい」と言われると、ご本人としては驚くとともに、受け入れがたく思うことがあるでしょう。
カウンセリングで大切なのは、ご本人が自分の思いや希望をしっかり受け止めてもらえているという気持ちになれることだと思います。
そういう意味では、ただ「逃げたほうがいい」と言われたら、自分の立場を拒否されたような気持ちになるかもしれません。
やはり大切なのは、ご本人が自分の思いを大切にしながら、自分自身で、自分のために考え、選択していくことだと思います。これが「エンパワメント」です。
「エンパワメント」は、自分の本来持っている力を認識し、活かすという意味なのですが、これはDVのカウンセリングのあらゆる面で中心となってきます。
首を絞められたとか、殴られた、怒鳴られたというようなDVがあるなかで、別離(=離婚)の方向に進むことが多く見られますが、相手との修復に進む場合もあったりします。
別離か修復かの分かれ目は、お二人の状況や変化によりますし、また、暴力のありようによります。
これが、カウンセリングで扱う二つ目のポイントである、「相手との関係性」のテーマです。
相手は自分にとってどのような存在なのか。
二人の関係は、自分にとってどのようなものなのか。
相手といることで、自分らしくいられているのかどうか。
自分を大切にし、相手も大切にするような関係やコミュニケーションとはどういうものか。
自分の人生で本当に大切にしたいことはどのようなことか。
このようなことを、カップルの生活の出来事のなかから、一つひとつ、丁寧にひも解いていきます。
別離を選択した場合は、DVのカウンセリングの二つ目の段階である「相手との別離を決意し、それを実行に移す段階」に移ります。
修復の方向へ向かっている場合は、アサーティブな表現に基づく、カップル間のコミュニケーションについてと、傷つきがちな自尊心についてがテーマとなります。