心を開く(2) 映画「鑑定士と顔のない依頼人」から

前回のつづきです。

前回にあらすじで書きましたが、ヴァージルの働きかけにより、クレアはヴァージルに姿を見せることができるようになりました。

ヴァージルは、家からは出られないクレアと(彼女は「広場恐怖症」なのです)、彼女の家の中で食事をしたりして過ごすようになります。

ある日ヴァージルは、自分の生い立ちについて話しました。なぜ凄腕の鑑定士になったのか。

彼は幼少期から養護施設で暮らしていました。それがなぜかは語られていません。

厳しい施設での生活の中で、何か問題を起こすと、罰として、教会の美術修復の仕事を手伝わされました。それに興味を持ったヴァージルは、わざと問題を起こしては修復作業に没頭するという子ども時代を過ごしたために、美術品に関する知識や技術を身につけることができたという話。

これはきっと、これまで誰にも語らなかった話だったでしょう。彼は怒りっぽく、潔癖で、厳しく、人を寄せ付けない人でした。お手伝いさんたちが自宅にいられるのも居心地悪く、オフィスでも他のスタッフと親しくすることはありませんでしたから。

この場面があって、「ああ、なるほど」と思いました。なんでヴァージルのような人物になったのかという背景が理解できた部分です。

彼は、クレアと出会い、生まれて初めて人に心を開く、ということを経験したのだと思います。

幼少期に、特に親から適切な養育を受けなかった場合、大人になってから、人との関係に難しさを感じる場合があります。

どこまで心を開いたらいいのかという距離感がつかめず、心を閉ざしてしまうか(ヴァージルのように)、心を開ききってしまって、心身ともに傷つくことを繰り返してしまいがちになったりします。

心を閉ざして生きてきていても、誰かに認められたい、受け止めてもらいたい、という欲求が、意識的にも無意識的にも心にあります。

ヴァージルの場合は、無意識でしたね。

無意識の場合は、彼のようなタイプになったり、モーレツなエネルギーでもって大成功したり、権力者になったり、暴力的になることもあります。DV加害者もそう。虐待する親にも見られます。

「黒子のバスケ」脅迫事件の裁判で、被告人は最終意見陳述で同様のことを自己分析していました。ものすごい長編の意見陳述でしたが、ご興味のある方はご一読ください。

身近な人に強く依存して、試すような言動をし、思うように受け止めてもらえないと、攻撃したり、あるいは自傷行為をしたりすることもあります。

自覚がある場合も似たような言動に現れますが、マイルドです。でも、満たされない思いを抱えていることが辛く、人間関係を難しく感じることがあります。

クレアに心を開いたヴァージルは、彼女を秘密の部屋に招き入れます。

誰にも入らせなかった、誰にも知らせなかった、彼だけの秘密の部屋。彼が唯一くつろぐことのできる空間。

その入り口は、手袋棚の後ろに、忍者屋敷のように仕掛けられていて、そこに部屋があるとは気づかれないようになっています。そのドアには、もちろん厳重なセキュリティ・キーが。

このようにしてたどり着くこの部屋は、彼の心の象徴ではないかと思います。

この手袋棚もまた彼を象徴していると思うのですが、強迫的潔癖症のヴァージルは、素手で物を触ることができないので、いつも手袋をしています。食事の時も。なので、この棚には手袋がずら~りとならんでいるのです。

直接触らなくてもいいようにするための手袋のすぐ後ろに、厳重な隠し扉を挟んで、彼の大切な部屋がある。

その大切な空間に、唯一心を開くことができたクレアを招き入れる。

ヴァージルはクレアを愛しました。愛は信頼ですから、自分のすべてを見せたかったのでしょうか。

しかしクレアに騙され、長年かかって集めった美術品はすべてごっそり持ち去られてしまいます。

自分の最も大切な部分。自分の本質。そこを明け渡してしまったために起きた悲劇。

幼少期にできた心の穴を埋めようとする無意識は、その穴を誰かが完全に埋めてくれるという希望として現れます。

たいていの場合は、警戒して、警戒して、心を開こうとする直前で止めてしまうのですが(なぜなら無意識は、その心の穴が完全に消え去ることは決してないといことを知っているので)、ヴァージルは一気に全開したのではないでしょうか。

傷ついてきたからこそ作ってきた、厳重な隠し扉の奥の隠し部屋。

その部屋があったからこそ、彼は生きてこられた。

そのように隠し通してきたからこそ、その大切な部分は守られてきた。(詐欺行為はいけませんけどネ、もちろん!)

その部屋を開くことがなくても、彼は大切な他者と生きていくことはできたでしょう。だってその前にもう関係はできていたのだから。

そこを開いてしまうということは、そこをすべて明け渡してしまうことと同じ。心(=美術品)を持っていかれてしまう危険性だってある。

それは心理的にはとても危機的な状況です。

だから彼も、クレアに騙され、精神的に病んでしまいました。

心を開く。

その開き方は、100%オープンと、完全シャットアウトの二者択一ではありません。

そのどちらでもない、中間。時と場合によって、自在に、安全に開くことが大切だと思います。

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